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赤ひげから銭ゲバまで、医師の世界も色々(2)
異動は医局の指示


異動するのは医局の指示

 では、こうした動きが広がるかといえば、そうでもなさそうだ。医師の世界で絶対的な力を持っているのは教授を頂点としたピラミッド組織になっている医局で、所属医師は医局の指示に従わなければならないからだ。そしてほぼすべての医師が自分の出身大学の医局に所属している。実はこのことが分かったのは検査に行った病院の医師から転勤すると告げられたからだ。

 私的なことだが、この数か月医療機関で検査を繰り返している。体重がこの1年で5kgも減少。しかも年明け以降だけで3kg痩せた。食事は普通以上に摂っているにもかかわらず、体重が元に戻るどころか、その後も緩やかに減少を続けているのが気味悪く、掛かり付けのホームドクターのところで診察してもらい、さらに大病院でCTその他の検査をしたが、原因の特定に至っていないから困る。
 減量をしているわけではないのに1年で5kgも体重が落ちると、真っ先に疑うのは不規則な食事による栄養の偏りか癌だが、食事は3食規則正しく摂っており、検査の結果栄養の偏りもなし。
 となると癌しかない。というわけで胃カメラと膵臓のCT検査。膵臓は1年前に嚢胞が見つかっており、妻も弟も膵臓癌だったので、医師から1年に1回CT検査を必ず受けるようにと言われていた。
 そこで胃カメラ検査とCT検査を同じ日に受けたのだが、偶然ということはあるもので、1年前に胃カメラ検査をしてくれた医師が、今回は内科の主治医になっていた。
 最初は互いにそのことに気付かなかったが、私は検査室で「昨年検査をしてくれた先生は上手だったね。今日もあの先生かな」と看護師に尋ねたことで、医師はカルテからこの偶然に気付き、それをきっかけに親近感が生まれた。そして互いに少し口が軽くなり、本来の医療とは直接関係ない話まで交わしてしまったのだった。

「私は3月一杯で退職しますから」
 検査結果の説明を受けた後、突然、医師がそう告げた。
 退職と聞き開業するのかとも思ったが、まだ30代半ば。開業には少し早いだろうと思い「よそへ移られるのですか」と尋ねてみた。
「B病院に行きます」
「B病院も九大(九州大学)系ですか」
「そうです。ここは最初から2年と言われて来ましたけど、いままで1年で転勤したこともありますから」
「転勤先は自分で選べるんですか」
「大学(医局)の指示ですよ。私らは言いなりです。家族は転勤が大変だと言っていますよ」
「異動すると給与はどうなんですか。変わらないんですか、それとも異動先の病院によって変わるんですか」
「病院によって変わります」
「ということは、下がることもあるわけですか」
「ありますよ」

 なるほど、勤務医には勤務医の苦労があるのだ。それにしても医局の存在は知っていたが、ここまで医局が力を持ち、医師の生殺与奪権を持っているとは知らなかった。
ただ、権力構造の側面だけでなく、地方医療が崩壊せずに済んでいるのは所属している医局が地方に若手医師を派遣してくれるからでもあるが。
 近年、日本社会の崩壊を見聞きすることが増えているが、一つには欧米、というよりアメリカ社会の表面的な模倣と技術信仰のなせる結果ではないだろうか。人間教育や哲学を疎かにしたまま細分化された専門性に突き進むから、人も社会も歪になっていく。
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